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【一級建築士製図試験】計画の要点等 過去問分析(令和元年)

2022年9月17日

計画の要点等がA3解答用紙で問われるようになって10年が経過しました。近年の試験では、8割程度は過去と類似した問題が出題されます。

よって、過去問対策が重要ですので、これまでにどんな問題が出たのか見ていきます。

本日は令和元年「美術館の分館」です。

概要

既存の美術館(本館)の隣地に「分館」を計画するものです。

分館は、本館とともに市民の教育・普及活動のために、文化・芸術・創造の拠点となることを目的として計画します。

建物規模は地上3階建て、2,000㎡から2,400㎡です。

敷地条件

  • 北側:歩道付き道路(16m) 公共駐車場
  • 南側:公園
  • 西側:公園
  • 東側:既存美術館(本館)

主な要求室等

教育・普及部門

展示関連諸室

  • 多目的展示室
  • 展示室A(光、陰影配慮)
  • 展示室B(映像、音響配慮)
  • 展示室C(絵画、書道展示)
  • ホワイエ

アトリエ関連諸室

  • 創作アトリエ(屋上庭園に直接行き来)
  • アトリエA~D
  • 準備室
  • 講師控室

共用部門

  • 吹抜け(3層)
  • エントランスホール
  • カフェ(1階、公園や本館から出入り)
  • ショップ

管理部門

  • 事務室
  • 荷解き室

設備スペース

  • ポンプ室(1階)
  • 屋上設備スペース(空調、電気設備)

外部施設

  • 屋上庭園(2階の屋上)
  • 屋外カフェテラス(地上)
  • トラックヤード(6.2m×2m程度)
  • 車椅子使用者用駐車場 2台
  • サービス用駐車場 1台

特徴的な留意事項

  • 公園への眺望に配慮
  • 分館と本館の来館者の動線を適切に計画
  • 展示関連諸室とアトリエ関連諸室を利用形態に応じて適切に計画
  • 断面計画において、天井高さ、天井懐を適切に計画
  • 日射負荷抑制が必要な室のガラスは、Low-Eガラス
  • 常用EVと人荷用EVを適切に計画

出題内容

令和元年は、計画の要点等として10問出題されました。うち3問で「イメージ図記入欄」が設けられ、これまでの「補足図記入欄」と違い、記入が必須となりました。

設問内容分野
(1)「展示」と「アトリエ」のゾーニング計画
(2)展示物移動に配慮した動線計画
(3)分館と本館の来場者動線計画
(4)展示室A、Bの室の設え計画
(5)吹き抜け空間の平面・断面計画、開口部環境
(6)眺望、採光に配慮した日射負荷抑制(イメージ図)環境
(7)屋上庭園の断面計画(イメージ図)構造
(8)建築物の構造、架構、スパン、部材寸法構造
(9)多目的展示室の構造計画、部材寸法構造
(10)多目的展示室の空調吹出し口(イメージ図)設備

(1)「展示」と「アトリエ」のゾーニング

「展示関連諸室」と「アトリエ関連諸室」のゾーニングについて問われました。

使用目的の異なるこれらの室を部門ごと明確に分離し、利用者にわかりやすい配置としたことを記述します。また、管理者の動線と利用者の動線が交錯しないことにも配慮します。

(2)展示物移動に配慮した動線

展示物等の移動に関して、荷解き室の搬入口から各展示室までの動線について考慮したことを問われました。

展示物の移動については、平成22年「美術館」でも出題されています。搬入から収蔵庫までの動線が対象でした。

留意事項に人荷用EVの要求があったので、大型展示物の移動を考慮して、展示物が通る廊下や出入口の幅員に余裕を持たせます。また、人荷用EVは荷解き室の近くに配置し、動線が短くなるように配慮します。

(3)分館と本館の来場者動線

平成30年「スポーツ施設」に続き、隣接施設との動線について問われました。

今回は、本館と分館の隣接部分が別図で記載され、本館出入り口の位置を考慮する必要がありました。また、分館カフェに本館からのアプローチ指定がありましたので、こちらに関する記述も必要です。

分館の主出入口は、北側道路に面し、本館寄りに配置することが望ましいと考えられます。

分館出入口を本館に近づけて、利用者の利便性に配慮することを記述します。また、分館敷地内に本館への通路を確保することを記述してもよいでしょう。

(4)展示室A、Bの室の設え

令和元年はコンセプトルームの出題がありませんでしたが、室の設えを問われました。解答欄には展示室A・Bそれぞれについて2行ずつ用意されましたので、各展示室の内装、什器について簡潔に記述します。

なお、平成29・30年度では「設え(しつらえ)」の注釈がありました。以前と同様、内装(インテリア)、什器、設備等と考えます。

展示室A

特記事項に「光やその陰影に配慮」とあったため、遮光カーテンの設置や、展示に合わせた照明配置を考慮したことを記述します。

展示室B

特記事項に「映像、音響等に配慮」とあったため、映像、音響装置の配置、スクリーン、遮光カーテン、防音のための壁や出入り口等について記述します。

(5) 吹き抜け空間の平面・断面計画、開口部

近年ほぼ毎年出題されている、自然採光に関する問題です。吹抜けは「整形の三層」が要求されました。吹抜けの配置位置に合わせて記述します。

外壁面に沿って吹抜けを配置

三層の窓から多くの自然光を取り入れ、各階共用部に採光を確保することを記述します。

建物中央部に吹抜けを配置

トップライトから多くの自然光を取り入れ、各階共用部に採光を確保することを記述します。

(6)眺望、採光に配慮した日射負荷抑制(イメージ図)

西及び南面の公園眺望と自然採光を確保したうえで、日射負荷を抑制する方法が問われました。

留意事項に「日射負荷抑制が必要な室のガラスはLow-Eガラスを使用」と記載があるため、Low-Eガラス以外の記述が必要です。

南面については、により日射遮蔽することで、眺望に配所したことを記述します。ただし、庇の出幅を大きくする場合は、建築面積への考慮も必要です。

西面については、可動式縦型ルーバーを設置し、時間帯により眺望を確保する方法が考えられます。

イメージ図については、断面図により日射を遮蔽する様子と、眺望の確保を図示すればよいでしょう。

(7)屋上庭園の断面計画(イメージ図)

屋上庭園の出口、通路、客土範囲の断面構造について、以下の内容が問われました。解答欄は、イメージ図はまとめて、各項目は分けて記入するようになっていました。

  • 梁断面、スラブ位置・厚さの考え方
  • バリアフリーの考え方
  • 防水の考え方

梁断面、スラブ位置・厚さ

客土部分は深さ500㎜、庭園床レベルと合わせる条件であるため、防水も考慮するとスラブ位置は、最低700㎜程度は下げる必要があります。

スラブ厚さは剛性を確保するため200㎜とします。

以上を踏まえ、客土範囲の梁せいは900㎜が必要です。

バリアフリー

屋上庭園レベルは防水に配慮し、スラブレベルを200㎜下げますので、室内床レベルとの段差を処理する必要があります。

水勾配を設けて段差処理するか、ウッドデッキ等で床レベルを揃えて段差をなくす方法が考えられます。

防水

梁断面やバリアフリーでも触れましたが、庭園のスラブレベルを室内より200㎜下げること、防水層を設けることを記述します。

イメージ図については、断面図により梁とスラブの接続の様子、出口の段差処理等を図示します。

スラブ、小梁のかけ方については、こちらの記事を参照してください。

(8)建築物の構造、架構、スパン、部材寸法

近年も、毎年必ず出題される項目です。自分のプランに合致していることを十分確認し、暗記した定形文で対応します。

なお、この年は部材寸法の対象に「壁の厚さ」が追加されました。

構造種別、架構形式、スパン割り

解答欄は3行であったため、簡潔に記述することが求められます。

構造種別はRC造、架構形式はラーメン架構について、定型文で対応します。スパン割りについては、柱1本あたりの負担荷重が過大にならないようにすること等を記述します。

部材寸法

大梁は500㎜×800㎜、小梁は300㎜×600㎜、柱700㎜×700㎜が目安です。

床及び壁の厚さは200㎜とします。 構造計画の詳細はこちらの記事を参照してください。

(9)多目的展示室の構造計画、部材寸法

頻出項目である大空間室の構造計画についての問題です。これまでとは少し問われ方が変わり、「柱、梁、床、天井、スパン等について考慮したこと」とありました。

構造計画

解答内容はこれまで通り、無柱空間とするためにPC梁を採用することや、どのようなスパン割りにしたか等を記述すればよいでしょう。

また、多目的展示室は200㎡以上、天井高さ6.5m以上であり、特定天井に該当するので、天井落下防止対策についても記述します。

部材寸法

大梁、小梁、柱、床、壁について問われました。

大梁はPC梁について記入するので500㎜×1200㎜、小梁は通常通り300㎜×600㎜が目安です。

柱はPC梁を支持するので、通常柱(700㎜×700㎜)よりもワンサイズ大きくし800㎜×800㎜とします。

床及び壁の厚さは200㎜とします。

(10)多目的展示室の空調吹出し口(イメージ図)

多目的展示室の空調計画について、吹出し口の設置位置を、床・壁・天井・幅木から一つ以上選択して、その位置とした理由と配慮したことを記述するものです。

多目的展示室は天井の高い大空間ですので、均一な気流分布と温湿度分布を保つために、天井や壁の上部から吹出し床面近くの壁から吸い込む方法や、床吹出し方式が考えられます。

イメージ図については、断面図により気流分布を図示できればよいでしょう。

まとめ

以上、令和元年の計画の要点等についてまとめました。

この年は、問題数が多く、難易度もかなり高かったと言えます。これまでとは少し違った切り口で、一瞬考えさせられる設問があったため、普段より記述に時間を取られたと思われます。

例年同様、計画の問題数が多く、プランの説明能力が問われたほか、庭園の構造計画では、梁やスラブの構造に関する理解が試されました。

計画の要点等は、近年、難化する傾向がみられます。過去問を中心にしっかり対策し、製図試験合格を引き寄せましょう。

◆過去問

Posted by もち