【一級建築士製図試験】計画の要点等 令和元年再試験

台風の影響で中止になった地域で、令和元年12月8日に実施された一級建築士試験「設計製図の試験」における記述部分「計画の要点等」について説明します。
設計課題は「美術館の分館」です。「分館」は、美術、工芸等の普及活動拠点として、市民の創作、展示等を支援します。
10月13日と同様、計画の要点等の設問として10問出題されました。
例年からの変更点
10問のうち、3問で補足図を記入する欄が設けられています。今までは、補足図(補足してもよい)は任意であったため、文章のみで設問に答えきることができていれば減点はありませんでした。
しかし、今年は「必ず記入のこと」と答案用紙Ⅱの問題文に書かれていたため、未記入の場合は「図面未完成」と判断され、即ランクⅣとなる可能性もあります。
出題内容
設問 | 内容 | 分野 |
1 | 多人数利用を踏まえた空間構成 | 計画 |
2 | 内外部のつながりを踏まえた室配置計画 | 計画 |
3 | オープンスペースについての工夫 | 計画 |
4 | 市民アトリエとショップの室の設え | 計画 |
5 | 吹抜けを自然換気に利用する工夫(補足図) | 環境 |
6 | 屋上庭園の断面計画(補足図) | 構造 |
7 | 建築物の構造種別等決定における耐震性と経済性 | 構造 |
8 | 多目的ホールの構造計画、部材寸法 | 構造 |
9 | 眺望、採光に配慮した日射負荷抑制(補足図) | 環境 |
10 | 多目的ホールの空調方式 | 設備 |
(1)多人数利用を踏まえた空間構成
多目的ホールを多くの人が利用することを前提として、空間構成において考慮したことを記述する問題です。
多目的ホールは特記事項に「講演のほか展示等に利用する」とあるので、利用者が出入りの際に留まる空間が必要と想定できます。
このことに配慮して、1階のエントランスホールや2階ホールに面して配置し、滞留する空間を確保したことを記述することが考えられます。
(2)内外部のつながりを踏まえた室配置計画
公園、カフェ、カフェテラスの関係性について問われました。
カフェの特記事項には以下の条件がありました。
- 1階に設置し、公園からもアプローチする
- カフェテラスと行き来できるようにする
- 公園への眺望に配慮する
よって、「カフェ→カフェテラス→公園」という動線をどのように確保したかを記述することになります。
(3)オープンスペースについての工夫
12月8日実施の試験では、分館から本館への経路上にオープンスペースの計画が要求されました。
また、問題文に「設計条件を踏まえた工夫」とあるので、留意事項にある「分館と本館の動線を適切に計画」を意識して記述する必要があります。
解答としては、本館利用者が分館に訪れやすくなるような工夫を記述することになります。
(4)市民アトリエとショップの室の設え
今年度は10月実施、12月実施の試験ともにコンセプトルームの出題がありませんでしたが、室の設えを問う問題として出題されました。
なお、平成29・30年度では「設え(しつらえ)」の注釈がありました。以前と同様、内装(インテリア)、什器、設備等と考えればよいでしょう。
市民アトリエの特記事項には「作業机、椅子、流し台」とありますので、これ以外の什器や内装について記述するように注意します。
ショップの特記事項には「画材、小物を販売」とありますので、このことに適した内容を記述します。
(5)吹抜けを自然換気に利用する工夫(補足図 )
近年ほぼ毎年出題されている、自然換気に関する問題です。吹抜けは、「トップライトのある整形の三層」が要求されました。
「三層の吹抜けを利用する」方法として重力換気が考えられます。吹抜けの平面的配置により場合分けが発生します。
外壁面に沿って吹抜けを配置
トップライトを開閉式とするか、吹抜け外壁面の上部に換気窓を設けて重力換気を行います。
建物中央部に吹抜けを配置
トップライトを開閉式とし、重力換気を行います。
(6)屋上庭園の断面計画(補足図)
屋上庭園の断面構造について問われました。以下のポイントについて記述します。
- 梁断面形状…客土部分と通路部分の段差を、適切に支持できる梁せい
- スラブ厚さ、梁との接続位置…客土深さ、重量を考慮したスラブ厚さ、接続位置
- バリアフリー…出入口の段差処理
- 防水…庭園部分を室内より200mm程度下げること、防水層を設けること
(7)建築物の構造種別等決定における耐震性と経済性
構造種別等の問題では見慣れない、「耐震性と経済性について考慮したこと」という内容でした。
しかし、過去には「耐震性について配慮したこと」や「経済性を踏まえた基礎計画」という出題があったことから、これらをヒントにすれば解答できたのではないでしょうか。
(8)多目的ホールの構造計画、部材寸法
多目的展示室は無柱空間の指定がありましたので、PC梁を用いた架構計画について記述します。ポイントは以下のとおりです。
- 柱…PC梁を支える柱を通常の柱よりもサイズアップ
- 梁…PC梁を用い、たわみやひび割れを抑制
- 天井…200㎡を超える大空間であることから特定天井とする
- スパン…短辺方向にPC梁を架け、架構の安定性に配慮
(9)眺望、採光に配慮した日射負荷抑制(補足図)
日射負荷抑制の方法を問われました。条件として、西、南面の公園眺望と自然採光の確保を要求されています。留意事項に「日射負荷抑制が必要な室のガラスはLow-Eガラスを使用」との条件があり、これ以外の工夫を示すことが求められています。
手法としては、庇、可動ルーバー、窓面の高さ等を用いた日射遮蔽手法を記述します。
(10)多目的ホールの空調方式
多目的ホールは天井の高い大空間であることから、均一な気流分布と温湿度分布を保つために、どの空調方式を採用したかを記述します。
多目的ホールには、専用の空調機械室設けることを踏まえて、単一ダクトや空冷HPP床置き型を選定することになるでしょう。
まとめ
12月8日に実施された試験の「計画の要点等」も、10月13日と同様に量が多く、難易度もかなり高かったと言えます。これまでとは少し違った切り口で、一瞬考えさせられる設問があったため、普段より記述に時間を取られた受験生が多かったと思われます。
日射負荷抑制についての設問では、西面の眺望と両立する必要があったため、多くの受験生が悩まされたでしょう。また、庭園の構造計画の設問は、かなり突っ込んだ内容であったため、梁やスラブの構造に関する理解が試されました。
しかし、自分が難しいと感じる問題は、まわりの受験生も同じように難しいと感じています。これらの問題に対して、あまり時間を使い過ぎずに、自分なりの考えを記述し割り切ることも重要です。
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