【一級建築士製図試験】計画の要点等 過去問分析(令和元年再試験)

計画の要点等がA3解答用紙で問われるようになって10年が経過しました。近年の試験では、8割程度は過去と類似した問題が出題されます。
よって、過去問対策が重要ですので、これまでにどんな問題が出たのか見ていきます。
本日は令和元年度12/8に関東で実施された「美術館の分館」です。※この年は台風の影響で、関東地方などの試験開催が延期されました。
概要
既存の美術館(本館)の隣地に「分館」を計画するものです。
分館は、本館とともに市民の教育・普及活動のために、文化・芸術・創造の拠点となることを目的として計画します。
敷地及び周辺条件
- 北側:既存美術館(本館) 本館の北側に歩道付き道路(16m)
- 南側:公園
- 西側:公園
- 東側:歩道付き道路(8m) 公共駐車場
- 隣地と公園又は本館とは自由に行き来できる
- 第一種住居地域(道路高さ制限及び隣地高さ制限の斜線勾配は1.25)
- 建蔽率60%、容積率200%
建築物
- 構造種別は自由 地上3階建て
- 床面積1,800㎡以上2,200㎡以下
- ピロティ等を屋内的用途に供するものは床面積に参入
- 「建築物移動等円滑化基準」を満たす
主な要求室等
教育・普及部門
展示室A~C、ホワイエ及び各種アトリエは直天上とせずに天井を張るものとし、天井高は3m以上とする。
展示室A~Cには「前室」及び「倉庫」を設ける。
展示関連諸室
- 多目的ホール(天井を張り天井高6m以上 短辺/長辺=1/2以上 無柱空間 専用の倉庫及び空調機械室を設ける)
- ホワイエ
- 展示室A~C
アトリエ関連諸室
- 市民アトリエ(屋上庭園と行き来 専用の「準備室」及び「倉庫」を設ける)
- アトリエA~D
- 準備室
- 講師控室
共用部門
- 吹抜け (短辺/長辺=1/2の整形 40㎡以上 3層吹抜け トップライト)
- エントランスホール(風除室 コインロッカー)
- カフェ(1階 カフェテラスと公園からアプローチ 厨房、更衣室、便所を設ける)
- ショップ
- 多機能トイレ
- 便所
管理部門
- 事務室
- 会議室
- 荷解き室
- 屋内ゴミ保管庫
設備スペース
- ポンプ室(1階)
- 屋上設備スペース(空調設備、電気設備を設置 人荷用EV)
その他の施設等
- 屋上庭園(2階床レベルに100㎡以上 屋外展示、利用者の休憩に利用 客土500㎜を60㎡以上 2階床レベルと同レベルとする)
- 屋外カフェテラス(地上 公園への眺望配慮)
- トラックヤード(2tトラック6.2m×2mが駐車 荷解き室に近接)
- 車椅子使用者用駐車場 2台
- サービス用駐車場 1台
- 分館出口前にオープンスペースを計画(30㎡以上)
特徴的な留意事項
- 公園への眺望に配慮する
- 分館と本館との来館者の動線を適切に計画する
- 展示関連諸室とアトリエ関連諸室を利用形態に応じ適切に計画する
- 断面計画において、要求室の天井高さ又は天井ふところを適切に計画する
- 常用エレベーター及び人荷用エレベーターを適切に計画する
- 地上に通ずる2以上の直通階段を適切に計画する
- 必要に応じて、敷地内の避難上有効な通路を適切に計画する。
出題内容
令和元年度12/8では、計画の要点等として10問出題されました。
設問 | 内容 | 分野 |
(1) | 多人数利用を踏まえた空間構成 | 計画 |
(2) | 内外部のつながりを踏まえた室配置計画 | 計画 |
(3) | オープンスペースについての工夫 | 計画 |
(4) | 市民アトリエとショップの室の設え | 計画 |
(5) | 吹抜けを自然換気に利用する工夫(イメージ図) | 構造 |
(6) | 屋上庭園の断面計画(イメージ図) | 構造 |
(7) | 建築物の構造種別等決定における耐震性と経済性 | 構造 |
(8) | 多目的ホールの構造計画、部材寸法 | 構造 |
(9) | 眺望、採光に配慮した冷暖房負荷抑制(イメージ図) | 環境 |
(10) | 多目的ホールの空調方式 | 設備 |
(1)多人数利用を踏まえた空間構成
多目的ホールを多くの人が利用することを前提として、空間構成において考慮したことを記述する問題です。
多目的ホールは特記事項に「講演のほか展示等に利用する」とあり、ホワイエを隣接させる必要がありますので、利用者が出入りの際に留まる空間としてホワイエを利用します。また、主要な居室であるため、利用者の動線ができるだけ短くなるように配慮します。
建物形状については、様々な用途に使用しやすいように、できるだけ整形な形状で計画することが有効です。
このことに配慮して、1階のエントランスホールや2階ホールに面して配置し、滞留する空間を確保したこと、利用者動線を短くしたこと、建物形状を整形としたことを記述します。
(2)内外部のつながりを踏まえた室配置計画
公園、カフェ、カフェテラスの関係性について問われました。
カフェの特記事項には以下の条件がありました。
- 1階に設置し、公園からもアプローチする
- カフェテラスと行き来できるようにする
- 公園への眺望に配慮する
よって、カフェは1階の西側(または南側)に配置することで公園利用者が利用しやすいようにします。また、カフェにはカフェテラスを隣接させ、カフェの客席やカフェテラスから公園の眺望が楽しめるようにします。
なお、歩行者の動線が車両動線と交差しないように注意します。
(3)オープンスペースについての工夫
分館から本館への経路上にオープンスペースを計画するよう要求されました。
問題分では、オープンスペースは「分館と本館の敷地までの経路に彫刻やベンチ等を設置し来館者がくつろげる語らいの場となる屋外空間を設ける」と規定されていますので、必ず敷地の北側に計画する必要があります。また、歩車分離についても配慮が必要です。
解答としては、本館利用者が分館に訪れやすくなるような工夫を記述することになります。例えば、本館にあるライブラリースペースの本を読むための屋外読書スペースや分館で実施しているイベントを紹介する屋外展示スペースが考えられます。
(4)市民アトリエとショップの室の設え
「設え(しつらえ)」とは内装(インテリア)、什器、設備等のことです。平成29・30年度は注釈がありましたが、令和元年度は注釈がありませんでした。
市民アトリエの特記事項には「作業机、椅子、流し台」とありますので、これ以外の什器や内装について記述するように注意します。具体的には、展示棚を設けて作品を展示できるようにすることや、公園(または屋上庭園)に面して広く開口を設けて良好な景観を取り入れることを記述します。
ショップの特記事項には「カフェに併設させ画材、小物を販売」とありますので、このことに適した内容を記述します。具体的には、レジカウンターや陳列棚を計画することや、カフェとの間仕切りをガラス製にしてカフェからショップの様子が見えるようにすることを記述します。
(5)吹抜けを自然換気に利用する工夫(イメージ図 )
問題文では「トップライトのある整形の三層吹抜け」が要求されました。
吹抜けを自然換気に利用する方法としては重力換気が考えられます。
重力換気の方法としては、吹抜けを外壁面に沿って配置して壁面に換気窓を設ける方法とトップライトを開閉式とする方法の2通りがありますが、今回はトップライトが問題文で指定されているため、トップライトを開閉式とするのが妥当でしょう。
また、各居室に換気用の欄間を設け、居室に広い開口部を設けることで、建物内に自然換気を積極的に取り入れることができます。
自然採光、自然換気についての詳しい記事はこちらを参照ください。
(6)屋上庭園の断面計画(イメージ図)
屋上庭園の断面構造について問われました。以下のポイントについて記述します。
- 梁断面形状…客土部分と通路部分の段差を適切に支持できる梁せいとします。
- スラブ厚さ…客土や樹木の重量を考慮したスラブ厚さ(200mm~250mm程度)とします。
- バリアフリー…屋外デッキ等を採用し出入口に段差をつくらないようにします。
- 防水…庭園部分を室内より200mm程度下げて排水管スペース、防水層、耐根層を設けるようにします。
屋上庭園の計画についてのその他の記事はこちらを参照ください。
(7)建築物の構造種別等決定における耐震性と経済性
構造種別等の問題では見慣れない、「耐震性と経済性について考慮したこと」という内容でしたが、定型文を多少変えるだけで対応できます。
耐震性については、「剛性に優れる鉄筋コンクリート造とする」「靭性に優れるラーメン架構とする」「不同沈下に優れるべた基礎を採用する」等と記述します。
経済性については、「スパン割を標準的なスパン割とすることで、部材が標準的な断面寸法で経済的になるようにした」「一部の階高が低い箇所に独立基礎を採用した」等と記述します。
(8)多目的ホールの構造計画、部材寸法
多目的展示室は無柱空間の指定がありましたので、PC梁を用いた架構計画について記述します。ポイントは以下のとおりです。
- 柱…PC梁を支える柱を通常の柱よりもサイズアップします
- 梁…PC梁を用い、たわみやひび割れを抑制します
- 天井…200㎡を超える大空間であることから特定天井とします
- スパン…短辺方向にPC梁を架け、架構の安定性に配慮します
(9)眺望、採光に配慮した冷暖房負荷抑制(イメージ図)
日射負荷抑制の方法を問われました。条件として、西、南面の公園眺望と自然採光の確保を要求されています。留意事項に「日射負荷抑制が必要な室のガラスはLow-Eガラスを使用」との条件があり、これ以外の工夫を示すことが求められています。
建築的手法としては、庇、水平・垂直ルーバーが考えられます。
南側については庇の軒先を2m以上とすることで、眺望を確保しつつ日射遮蔽を図ることができます。
西側については、垂直ルーバーを設けることが想定されますが、その場合には床レベルから2m以上の位置にのみ垂直ルーバーを設けることで、眺望を確保することができます。
設備的手法としては、空調吹出し口の位置をペリメータゾーンに集中させることが考えられます。また、空調方式に空冷ヒートポンプパッケージを採用した場合には、全熱交換機の採用も有効です。
空調負荷抑制の詳細についてはこちらを参照ください。
(10)多目的ホールの空調方式
多目的ホールは天井の高い大空間であることから、均一な気流分布と温湿度分布を保つことが重要です。
空調方式としては、問題文で専用の空調機械室設けることが指定されていますので、換気量の大きい空調方式単一ダクト方式や空冷HPP床置き型を選定します。
また、冬場のコールドドラフト対策として空調吹出し口にライン型吹出口を採用すること等を記述します。
まとめ
12月8日に実施された試験の「計画の要点等」も、10月13日と同様に量が多く、難易度もかなり高かったと言えます。これまでとは少し違った切り口で、一瞬考えさせられる設問があったため、普段より記述に時間を取られた受験生が多かったと思われます。
日射負荷抑制についての設問では、眺望と両立する必要があったため、多くの受験生が悩まされたでしょう。また、庭園の構造計画の設問は、かなり突っ込んだ内容であったため、梁やスラブの構造に関する理解が試されました。
しかし、自分が難しいと感じる問題は、まわりの受験生も同じように難しいと感じています。これらの問題に対して、あまり時間を使い過ぎずに、自分なりの考えを記述し割り切ることも重要です。
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