【一級建築士製図試験】計画の要点等 過去問分析(平成29年)

平成29年に実施された一級建築士試験「設計製図の試験」は「小規模なリゾートホテル」が設計課題とされました。
概要
宿場町の古い町並みが残る地域において、明峰を望み緑豊かな自然に囲まれ湖畔に建つ「小規模なリゾートホテル」の計画です。国内外からの旅行客が地域住民と交流を図りつつ滞在型観光ができるような施設です。
計画にあたっては、バリアフリーへの配慮、パッシブデザインの積極的な取入れ、斜面の高低差を活かした建築物の立体(断面)構成が求められました。
敷地及び周辺条件
- 北側:歩道付き道路 樹林
- 南側:湖辺 湖(景色が良い)
- 西側:共用駐車場 大学セミナーハウス
- 東側:樹林
- 南西:遠くに明峰が見え景色が良い
- 敷地南側に4mの傾斜あり
- 敷地南側は表土2.5mまではN値5以下、砂礫層(2.5m以深)はN値45程度
- 建蔽率60%、容積率200%
- 建築物の高さの限度はG.L.+12m
- 外壁の後退距離は、前面道路の境界から5m以上
- 主要な屋根は、2/10以上の勾配屋根
建築物
- 構造種別は自由
- 地下1階、地上2階建て
- 敷地のG.L.±0mの部分に直近の床を地上1階とし、避難階は地上1階とする
- 床面積は2,400㎡以上、2,800㎡以下
- ピロティ等を屋内的用途に供するものは床面積に参入する
- 「建築物移動等円滑化基準」を満たす
主な要求室等
宿泊部門
- 客室A(洋室・2人)×10
- 客室B(洋室・車椅子使用者)×2
- 客室C(和洋室・4人)×2
- リネン室
共用・管理
- エントランスホール
- フロント
- 事務室
- ラウンジ
- レストラン
- 地域ブランドショップ
- コンセプトルーム
- 大浴場
- トレーニングルーム
- 従業員休憩室
- 多機能トイレ
設備スペース
- 空調機械室
- 電気室
- 機械室
外部施設
- 車いす使用者用駐車場 2台
- サービス用駐車場 2台
- 車回し(直径12m以上の円が入るスペース)
- 地下1階から湖辺にアクセス
- リラクセーションスペース 50㎡
特徴的な留意事項
- 敷地の条件を考慮した地下1階の構造及び建築物全体の基礎構造を適切に計画する
- 空調設備は「外気処理空調機+ファンコイルユニット方式」
- 給湯設備は「熱源機器+貯湯槽」による中央式給湯方式
計画の要点等
平成29年は計画の要点等として7問出題されました。補足図については、設問(1)(2)において任意で記入しても良いとされました。
設問 | 内容 | 分野 |
(1) | パッシブデザイン | 環境 |
(2) | 客室B室内計画のバリアフリーへの配慮 | 計画 |
(3) | コンセプトルーム使用目的と設い | 計画 |
(4) | 建築物の構造、、架構、部材寸法等 | 構造 |
(5) | 地盤条件をふまえた基礎構造 | 構造 |
(6) | 斜面地の地下1階の構造駆体についての土圧・水圧対策 | 構造 |
(7) | 居室に関する空調機械室及びダクトスペース | 設備 |
(1)採用したパッシブデザイン(3つ以上)
解答用紙には、5行の解答欄と補足図のスペースが用意されました。
パッシブデザインは、自然採光、自然換気、夏期の日射遮蔽等、様々な方法がありますので、書きやすいものを採用します。
自然採光については、勾配屋根が指定されていますので、勾配屋根を利用してハイサイドライトを計画し、吹抜けを介して建物中央に自然採光を取り込むのが有効です。
ハイサイドライトを開閉式とし、居室の開口部を広く計画して換気用の欄間を設けることで、自然通風を確保できます。
夏期の日射遮蔽については、Low-Eガラスの採用、ルーバーや庇の設置について記述します。なお、近年は Low-Eガラス については環境負荷低減対策として除く場合がありますので注意してください。
補足図については、マンガ絵(断面図)でパッシブデザインを表現します。
(2)客室Bの室内計画について、バリアフリーに配慮した設計の考え方(3つ以上)
解答用紙には、5行の解答欄と補足図のスペースが用意されました。
客室Bは車椅子利用者用の客室であることを考慮して、バリアフリー設計についての考え方を3つ記載します。具体的には以下の方法が考えられます。
- 室内に段差をつくらないように、水回りのスラブを20cm程度下げて計画する
- 室内に車椅子の転回スペースを確保する
- 車椅子で出入りしやすいように、客室の間口を広く計画する。
- 浴室、脱衣所、トイレ等に手すりを設ける
- 洗面台、コンセント等の位置について、車椅子利用を想定した高さで設計する
補足図については、文章の内容をマンガ絵(平面図、断面図)で表現します。
(3)コンセプトルームについて、既存の観光資源を想定した「使用目的、効果」と「設い」
コンセプトルームについて初めて出題されました。
「使用目的とその効果」と「設い(内装、什器、設備機器等」について、それぞれ3行の解答欄が用意されました。
使用目的とその効果
「既存の観光資源を想定した」とありますので、『地域の歴史を紹介する情報コーナー』や、『地場産業を活かしつつ体験型の観光が楽しめる陶芸教室』や『工作教室等』の計画などが考えられます。
今後もコンセプトルームが出題される可能性はありますので、製図テーマが発表された際に、事前に準備しておきましょう。
設い(内装、什器、設備機器等)
まず、「設い(しつらい)」については、 内装、什器、設備機器等 とかっこ書きで説明がありますが、近年の設問では説明なく使用される語句ですので覚えておきましょう。
情報コーナーの場合は、情報パネル、案内カウンター、展示コーナー、休憩コーナー等を設けます。陶芸教室の場合には、内装を土壁としたり、ろくろ、電気窯、展示棚、作業机、イス、手洗い場等を設けます。
(4)建築物の構造種別、架構形式、スパン割り、部材の断面寸法
毎年必ず出題される項目ですので、自分のプランに合致していることを十分確認し、定形文で対応します。
構造計画の詳細はこちらの記事を参照してください。
(5)地盤条件をふまえた「基礎構造の形式」「基礎底面のレベル」「基礎梁の寸法」
敷地及び周辺状況の地盤条件を確認して解答します。
基礎構造の形式は、地下一階に片側土圧が作用することと、不等沈下に対する安定性を考慮してベタ基礎を採用するのが妥当です。
基礎底面のレベルは、N値が45程度の砂礫層に1m程度貫入させて、十分な根入れ長を確保するようにします。基礎梁の寸法は根入れ長を考慮して、500㎜×3,500㎜で計画します。
基礎計画の詳細はこちらの記事を参照してください。
(6)斜面地の地下1階の構造駆体についての土圧・水圧対策
土圧対策としては、地下1階に生じる片側土圧に抵抗するため、外壁の厚さを通常の200㎜からサイズアップして400㎜として計画します。
水圧対策は、漏水対策として外壁を二重壁構造とし、内壁と外壁の間に防水シートや排水管を設けるようにします。
(7)各階の居室に給気するためのダクトルートの計画について、空調機械室及びダクトスペースで考慮したこと
空調方式は「外気処理空調機+ファンコイルユニット方式」が指定されました。「外気処理空調機」は給気ダクトが必要となりますので、ダクトルートを短くして圧力損失を低減するために、空調機械室の上部にDSを設けるか、建物中央付近にDSを設けるようにします。
空調計画の詳細はこちらの記事を参照してください。
まとめ
以上、平成29年の計画の要点等についてまとめました。
この年はコンセプトルームに関する問題が初めて出題されました。コンセプトルームはとまどいがちですが、事前に複数パターンを準備しておけば得点源となります。
また、複雑な地盤条件が設定され、解答に苦慮したものと思われます。基礎計画について理解を深めておきましょう。
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